「うちは大丈夫」と思っていませんか?
「残業代はちゃんと払っているから問題ない」「従業員との関係も良好だし、訴えられることはない」——そう考えている経営者の方も多いのではないでしょうか。しかし、未払い残業代の請求は、決して他人事ではありません。実は退職後に請求されるケースが多く、在職中は表面化しないため、経営者が気づかないうちにリスクが積み重なっているのです。
では、実際に未払い残業代を請求された場合、企業はどれくらいの金額を支払うことになるのでしょうか。今回は、未払い残業代の平均請求額と、中小企業が今すぐ取り組むべき対策についてお伝えします。未払い残業代の平均請求額は想像以上
厚生労働省の発表によると、令和6年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の金額は、年間で172億円を超え、そのうち94.2%の約162億円を実際に使用者が賃金を支払っています。1件あたりの平均請求額は約75万円にも上り、対象労働者一人あたりでは平均して約9万円程度となっています。また、そのうち94.2%にあたる特に注意が必要なのは、未払い残業代は過去3年分まで遡って請求できるという点です。さらに、未払い分と同額の付加金(ペナルティ)が課される可能性もあり、実際の支払額は請求額の2倍になることもあります。従業員30名未満の中小企業にとって、数百万円から1,000万円を超える支払いは、経営に深刻な影響を与えかねません。なぜ、これほど高額になってしまうのでしょうか。主な理由は以下の通りです。• 長期間の積み重ね:毎月の未払いが少額でも、3年分となると大きな金額になります• 割増賃金の計算ミス:時間外労働の割増率(25%以上)や深夜・休日労働の割増率を正しく適用していないケースが多い• 遅延損害金と付加金:支払いが遅れるほど遅延損害金が加算され、悪質と判断されれば付加金も課される中小企業でよくある「うっかり未払い」のパターン
「意図的に残業代を払わないつもりはない」という経営者がほとんどです。しかし、労働時間の管理方法や計算方法が適切でないために、結果的に未払いが発生してしまうケースが後を絶ちません。(以下は仮の事例です)建設業A社では、毎朝6時に会社へ集合し、アルコールチェックを受けてから社用車に乗り合わせて現場へ向かうのがルールでした。帰りも必ず会社に戻ってから解散していましたが、給与は現場の「出面表」に基づき、現場稼働時間の「8:00〜17:00」分のみ支払っていました。ところが退職した元社員から、突然「過去数年分の未払い残業代」を請求される事態に。元社員は、会社が義務として保管していた「アルコールチェックの実施ログ」を証拠として提示。「6時に検査を受けてから、帰社して解散する19時まで、ずっと会社の指示で動いていた」と主張しました。会社側は「移動は休憩だ」と反論しましたが、客観的な記録(ログ)と実態のズレを厳しく追及されることとなりました。ケース2:管理職だから残業代は不要と思い込んでいた卸売業のB社では、係長職に昇進させた従業員を「管理職」として扱い、残業代を支払っていませんでした。しかし、労働基準法上の「管理監督者」(経営者と一体的な立場で、労働時間の裁量がある者)には該当せず、多額の未払い残業代の支払いが発生しました。「みなし残業代として月3万円を支給しているから大丈夫」と考えていたC社。しかし、実際の残業時間がみなし時間を超えていたにもかかわらず、超過分を支払っていませんでした。固定残業代制度は、実際の残業時間が固定分を超えた場合、差額を支払う必要があるという原則を理解していなかったのです。未払い残業代リスクを防ぐための具体的な対策
では、こうしたリスクを未然に防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。重要なのは、「正確な労働時間の把握」と「適切なルール作り」です。まず取り組むべきは、勤怠管理の見直しです。手書きのタイムカードやExcelでの管理では、記録の改ざんや計算ミスのリスクが高まります。近年では、中小企業でも導入しやすいクラウド型の勤怠システムが増えており、スマートフォンやタブレットで打刻できるため、現場作業が多い業種でも正確な時間管理が可能になります。さらに、給与計算を自社で行っている場合、法改正への対応や割増賃金の計算ミスが発生しやすくなります。給与計算アウトソーシングを活用することで、専門家が最新の法令に基づいて正確に計算し、未払いリスクを大幅に軽減できます。綾部事務所では、勤怠システムの導入支援から給与計算の代行まで、一貫してサポートしています。次に重要なのが、就業規則の見直しと労働時間ルールの明確化です。特に以下の点を確認してください。• 労働時間、休憩時間、休日が明確に定められているか• 固定残業代制度を導入している場合、基本給と固定残業代が明確に区分されているか• 管理職の定義が適切か(名ばかり管理職になっていないか)就業規則は、単に作成するだけでなく、実際の運用が法令に適合しているかが重要です。綾部事務所では、御社の実態に合わせた就業規則の見直しと、実務で使える労働時間ルールの整備をお手伝いしています。「働きやすい職場」が人手不足解消にもつながる
労働時間管理を適切に行うことは、単にリスク回避だけではありません。透明性のある労働環境は従業員の信頼を高め、採用や定着にもプラスの効果をもたらします。人手不足が深刻化する中、「法令を守り、働きやすい職場づくりに取り組んでいる」という姿勢は、求職者にとって大きな魅力となります。また、2024年4月からは建設業や運送業でも時間外労働の上限規制が適用されるなど、法改正対応も待ったなしの状況です。今のうちに勤怠管理や就業規則を見直し、法改正対応と働きやすい職場づくりを同時に進めることが、これからの企業経営には不可欠です。まとめ:今こそ、労務管理の見直しを
未払い残業代の平均請求額は、中小企業にとって決して無視できない金額です。しかし、適切な勤怠管理と明確なルール作りを行えば、こうしたリスクは十分に防ぐことができます。「何から手をつければいいかわからない」「自社の労働時間管理が適切か不安」——そんなお悩みをお持ちではありませんか。勤怠管理のDX化、給与計算アウトソーシング、就業規則の見直しなど、労務リスク対応や働きやすい職場づくりにお困りの方は、ぜひ綾部事務所までご相談ください。地方の中小企業の実情を理解した専門家が、御社に最適なソリューションをご提案いたします。