職場のハラスメント対策ガイド―ハラスメント多すぎ問題に立ち向かう(2025/12/23)

はじめに:なぜハラスメント対策が重要なのか
職場のハラスメントは、働く人の能力発揮を妨げるだけでなく、個人の尊厳や人格を傷つける人権に関わる重大な問題です。企業にとっても、離職・メンタル不調・生産性低下・紛争化などのリスクにつながります。
事業主の義務(重要)
事業主には、以下のハラスメントについて雇用管理上の措置を講じる法的義務が課されています。
措置義務の対象となるハラスメント
- ・パワーハラスメント(パワハラ)
- ・セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- ・妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ等)
- ・育児・介護休業等に関するハラスメント(ケアハラスメント)
講じるべき措置の内容
- ・方針の明確化と周知・啓発
- ・相談体制の整備(発生のおそれがある場合も含め、広く対応)
- ・事後の迅速かつ適切な対応
- ・プライバシー保護
- ・不利益取扱いの禁止
- ・(妊娠・出産等、育児・介護休業等)原因や背景となる要因を解消するための措置
ハラスメントの種類一覧
職場で発生しうるハラスメントを、法的な措置義務の有無で分類しています。
【法的に措置義務があるハラスメント】
これらのハラスメントについては、事業主に防止措置を講じる法的義務があります。
|
ハラスメントの種類 |
内容・定義 |
具体例 |
|
パワーハラスメント(パワハラ) |
優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により就業環境を害すること |
・人格否定の発言 ・長時間の叱責 ・仕事を与えない ・過大な要求 |
|
セクシュアルハラスメント(セクハラ) |
労働者の意に反する性的な言動により、労働条件の不利益を受けたり就業環境が害されること |
・性的な冗談 ・身体への接触 ・性的な関係の強要 ・わいせつ画像の配布 |
|
妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ等) |
妊娠・出産、産休等の制度利用等に関する言動により就業環境が害されること |
・妊娠報告後の退職強要 ・「妊婦は迷惑」発言 ・産休取得の妨害 |
|
育児・介護休業等に関するハラスメント(ケアハラスメント) |
育児休業、介護休業等の制度利用に関する言動により就業環境が害されること |
・育休取得への嫌がらせ ・時短勤務への嫌味 ・介護休業の取得妨害 |
|
パタニティハラスメント(パタハラ) |
男性労働者が育児休業等を取得することに関する嫌がらせや制度利用の妨害※育児・介護休業等ハラスメントの一類型 |
・「男が育休なんて」発言 ・育休取得の妨害 ・復帰後の不利益取扱い |
根拠法令
- ・パワハラ:労働施策総合推進法
- ・セクハラ・マタハラ:男女雇用機会均等法
他
- ・ケアハラ・パタハラ:育児・介護休業法
他
【その他の重要なハラスメント】??
法的な措置義務はありませんが、企業として適切な対応が求められます。特にカスハラ対策は、現在、事業主の努力義務とされておりますが、2026年に義務化が予定されています。
|
ハラスメントの種類 |
内容・定義 |
具体例 |
|
カスタマーハラスメント(カスハラ) |
顧客や取引先等からの著しい迷惑行為(暴言、不当な要求、長時間拘束など) |
・理不尽なクレーム ・土下座の強要 ・暴言・暴力 |
|
モラルハラスメント(モラハラ) |
精神的な暴力や嫌がらせにより、相手の人格や尊厳を傷つける行為 |
・無視や仲間外れ ・陰口や悪口 ・過度な監視 |
|
SOGIハラスメント(ソジハラ) |
性的指向や性自認等に関する差別的言動や侮辱、アウティング等 |
・侮辱的発言 ・本人の同意なく暴露 ・差別的な扱い |
|
リモートハラスメント(リモハラ) |
テレワーク環境下での過度な監視や不適切な言動 |
・常時カメラON強制 ・私生活への過干渉 ・深夜早朝の連絡 |
法律により防止措置が義務付けられているハラスメント(詳細)
1. パワーハラスメント(パワハラ)
定義:次の3つの要素をすべて満たすもの
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
代表的な6つの類型
①身体的な攻撃
- ・殴打、足蹴り、物を投げつける
②精神的な攻撃
- ・人格否定、長時間の叱責
- ・大声での威圧、能力否定の罵倒メール
③人間関係からの切り離し
- ・別室への隔離、集団での無視、職場での孤立
④過大な要求
- ・過酷な環境での不要な作業
- ・教育なしの無理な目標、私的な雑用の強制
⑤過小な要求
- ・誰でもできる業務のみを命じる
- ・嫌がらせで仕事を与えない
⑥個の侵害
- ・継続的な監視、私物の撮影
- ・機微な個人情報の無断暴露
!注意!以下は直ちにパワハラに該当するとは限りません
- ・業務上必要かつ相当な範囲での適正な業務指示や指導
- ・社会的ルール欠如に対する注意(必要性・相当性の範囲内)
- ・重大な問題行動への指導(態様が社会通念上相当な範囲内)
2. セクシュアルハラスメント(セクハラ)
定義:
職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること
2つの類型:
対価型セクハラ
- ・性的な関係を要求し、拒否されたため解雇
- ・身体への接触を拒否したため不利益な配置転換
環境型セクハラ
- ・度々身体に触られ就業意欲が低下
- ・性的な内容の情報を流布され仕事が手につかない
- ・抗議してもアダルトサイトを閲覧し続ける
重要なポイント
- ・異性だけでなく、同性に対するものも該当し得ます
- ・被害者の性的指向、性自認に関わらず該当し得ます
- ・男女とも行為者にも被害者にもなり得ます
- ・事業主(代表者、役員等)も行為者となる可能性があります。
3. 妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ等)
定義:
職場において、妊娠・出産したこと、産休等の制度利用に関する上司・同僚からの言動により、就業環境が害されること
制度等の利用への嫌がらせ型
- ・産前休業を相談したら「休むなら辞めてもらう」
- ・時間外労働の免除を相談したら「昇進しないと思え」
- ・育児休業取得を周囲に伝えたら「迷惑だ」と繰り返し言われる
状態への嫌がらせ型
- ・妊娠報告をしたら「早めに辞めてもらう」
- ・「妊婦は休むからまともな仕事任せられない」と繰り返し発言
- ・「妊娠するなら忙しい時期を避けるべき」と繰り返し非難
4. 育児・介護休業等に関するハラスメント(ケアハラスメント)
定義:
育児休業、介護休業等の制度利用に関する上司・同僚からの言動により、就業環境が害されること
ハラスメントに該当する例
- ・「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」
- ・「短時間勤務は周りを考えていない。迷惑だ」と繰り返し発言
- ・介護休業を請求したら「自分なら請求しない」と取得を妨害
ハラスメントに該当しない例
- ・業務体制見直しのため、休業期間を確認すること
- ・業務状況を考えて、日程調整を相談すること(強要しない場合)
- ・体調を配慮し、業務の軽減を提案すること
事業主が講ずべき雇用管理上の措置
事業主は、以下の措置を講じる必要があります。
①事業主の方針の明確化と周知・啓発
- ・ハラスメントの内容と、行ってはならない旨を明確化
- ・就業規則等に方針を規定し、労働者に周知
- ・研修等により周知・啓発
- ・行為者への対処方針を規定し周知
②相談体制の整備
- ・相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知
- ・相談担当者が適切に対応できる体制を整備
- ・現に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合等も含め広く相談に対応
③事後の迅速かつ適切な対応
- ・事実関係を迅速かつ正確に確認
- ・被害者に対する配慮措置(配置転換、相談対応等)
- ・行為者に対する適正な措置(懲戒処分等)
- ・再発防止に向けた措置
④併せて講ずべき措置
- ・相談者・行為者等のプライバシー保護
- ・相談等を理由とする不利益取扱いの禁止
- ・(妊娠・出産等、育児・介護休業等)原因や背景となる要因を解消するための措置(業務体制の整備等)
不利益取扱いの禁止
事業主及び事業主の指揮命令下にある者は、労働者が相談したこと、事実関係の確認に協力したこと、都道府県労働局の援助制度を利用したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはなりません。
関係者の責務
事業主の責務
- ・ハラスメント問題に対する労働者の関心と理解を深めること
- ・労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修等の配慮をすること
- ・事業主自身(法人の場合は役員)が、ハラスメント問題への理解を深め、労働者に対する言動に注意を払うこと
労働者の責務
- ・ハラスメント問題に関する理解と関心を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うこと
- ・事業主の講ずる雇用管理上の措置に協力すること
今日から始められる具体的な対策
企業が最初に取り組むべきこと
ハラスメント防止規程の策定
- ・就業規則への明記
- ・行為者への懲戒処分の明確化
相談窓口の設置と周知
- ・社内・社外の相談窓口の設定
- ・全社員への周知徹底
全社員向け研修の実施
- ・年1回以上の定期研修
- ・管理職向け特別研修
実態把握とリスク評価
- ・匿名アンケートの実施
- ・職場環境の定期チェック
よくある質問(Q&A)
Q1:業務上の指導とパワハラの境界線は?
A: 業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、直ちにパワハラに該当するとは限りません。ただし、人格を否定するような言動や、業務の目的を大きく逸脱した言動、社会通念上許容される範囲を超える態様・手段による言動は、パワハラに該当する可能性があります。個別の事案ごとに、様々な要素を総合的に考慮して判断します。
Q2:「繰り返し」とあるものは1回だけならパワハラにならない?
A: いいえ。例に示されているものはあくまで典型例であり、個別の事案の状況により判断が異なります。強い身体的・精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があります。
Q3:服装の指定もパワハラになる?
A: 業務上の必要性や相当性が認められる服装の指示は、直ちにパワハラに該当するとは限りません。ただし、健康状態等を無視した不合理な強制などは、パワハラに該当する可能性があります。
Q4:制度の利用時期の調整を相談することもハラスメント?
A: 休業等について、時期の調整が可能か労働者の意向を確認する行為は、それ自体が直ちに禁止されるものではありません。ただし、労働者の意向を汲まない一方的な通告や、取得を思いとどまらせる圧力となる言動は、ハラスメントとなる可能性があります。
まとめ
- ・ハラスメントは人権に関わる重大な問題であり、個人の尊厳を傷つける許されない行為です
- ・事業主には雇用管理上の措置を講じる法的義務があり、対応が不十分な場合は行政上の指導等の対象となり得ます
- ・ハラスメントは多様化しており、措置義務の対象以外にも様々な形態があります
- ・予防が最も重要で、方針の明確化、周知・啓発、相談体制の整備が基本です
- ・相談があれば迅速・適切に対応し、事実確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止を行います
- ・すべての労働者が協力して、ハラスメントのない職場環境を作ることが大切です
ご相談は綾部事務所へ
職場のハラスメント対策について、専門家がサポートいたします。
ご提供できるサービス
- ・ハラスメント防止規程の作成支援
- ・就業規則の見直し・整備
- ・社内研修の企画・実施
- ・相談窓口の設置サポート
- ・ハラスメント事案発生時の対応支援
お気軽にご相談ください。
ハラスメントのない職場づくりは、一人ひとりの意識から
お互いを尊重し、誰もが働きやすい職場環境を実現することで、従業員の能力が最大限に発揮され、企業の生産性向上にもつながります。今日からできることを始めましょう!≪ パート・有期社員の説明要求権明示義務化-あなたの会社は大丈夫ですか? | 労災保険の「一人親方」、本当に大丈夫ですか? ≫
