国民年金保険料の上昇が示す「人件費のこれから」(2026/1/14)
〜中小企業が今考えておくべき制度設計の話〜
「社員を雇って働いてもらう」という当たり前のことが、これまで以上に“コスト”として重くなってきている――そんな実感をお持ちの経営者の方も多いのではないでしょうか。物価の上昇、エネルギー価格の高騰、最低賃金の引き上げ、そして社会保険料の増加。あらゆる方向から企業の“人に関わる経費”が圧迫されつつあります。今回はその中でも「見落としがちだが、確実に効いてくる」国民年金保険料の上昇を取り上げながら、これからの人件費の捉え方と制度の整え方について考えていきたいと思います。
年金保険料、30年間で約1.5倍に
日本年金機構が公表している国民年金保険料の推移を見ると、平成7年度(1995年度)の保険料は月額11,700円でした。それが令和7年度(2025年度)には17,510円、さらに翌令和8年度(2026年度)には17,920円へと引き上げられる予定です。この30年間で、実に約1.5倍の上昇です。企業が直接納める保険料ではありませんが、これが意味するのは「生活コストの増加」と「人件費に関する期待値の変化」です。
若手やフリーランスの“将来不安”が採用・定着に影響する時代
年金保険料が高くなっても、もらえる年金額が比例して増えるわけではない、という不信感や不安は、すでに若い世代の間では常識のように語られています。そうした状況の中で、企業に求められるのは、「ただ給料を出す」だけでなく、「長期的な安心も提供できる環境かどうか」。これは、求職者が企業を選ぶ際の基準として年々重視されるようになってきました。とくにフリーランスや非正規雇用から転職してくる層にとっては、「社会保険がしっかりしているか」「老後まで働き続けられそうか」という視点は以前よりもずっと重みを持っています。
“給料を上げればいい”だけでは通用しない
最低賃金の上昇に対応するために時給を上げる企業は多くあります。それ自体は正しい判断ですが、同時に「残業代」や「社会保険料」などの周辺コストも増えていくことを見落とすと、「利益が出ないのに人件費だけが増えていく」という事態になりかねません。また、価格転嫁がスムーズに進まない現実がある中で、人件費ばかりが先行して上昇するのは、経営上の大きなリスクです。こうした背景があるからこそ、いま企業が取り組むべきは“給与以外の制度設計”です。
社員の将来を支える制度で、企業も守る
たとえば、企業型DC(企業型確定拠出年金)は、中小企業でも導入できる老後資金の積み立て制度です。月々の掛金を会社が負担することで、社員の将来に備えることができ、しかも掛金は全額損金扱いとなるため、企業側の負担も比較的抑えられます。「うちみたいな規模でそんな制度は無理」と思われるかもしれませんが、実際に導入している企業は年々増えています。福利厚生としての効果もあり、採用の際のアピール材料にもなることから、大都市圏だけでなく地方企業でも着実に広がりつつあります。
「人を守る制度」が“選ばれる理由”になる
給料を少しだけ上げるより、「この会社にいれば将来も安心できそう」と思ってもらえる仕組みを整える方が、定着率やエンゲージメントに確かな効果を発揮する場面が増えています。• 評価制度が曖昧で、頑張っても報われないと思われている• 福利厚生が弱く、若手に選ばれない• 採用しても定着せず、何度も募集を繰り返しているこうした課題に悩んでいる場合は、制度面の整備が効果的です。
制度づくり=未来への投資
中小企業にとって、「制度」と聞くとコストや手間を連想しがちですが、それは逆に「一度整えてしまえば、長期的にコストやリスクを減らせる手段」でもあります。• 社員の老後を見据えた仕組み(企業型DCなど)• 貢献度に応じた納得感のある評価制度• 定着につながる労務管理の見直しこうした制度は、いわば“未来への備え”です。そして、少人数だからこそ柔軟に動ける、中小企業だからこそ、早めの着手が効果を発揮します。
おわりに
国民年金保険料の上昇は、社会全体の構造的な問題です。しかし、それをただ「仕方がない」で終わらせるのではなく、企業としてどう向き合い、何を整えていくかが問われています。制度を整えることは、「社員の人生を支える」だけでなく、結果的に「企業としての信頼性を高める」ことにもつながります。
人件費設計・福利厚生制度・評価制度などにお困りの方は、綾部事務所までご相談ください。
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