【基本の基】労働条件通知書とは?記載すべき内容と最近の法改正をやさしく解説(2026/10/20)
労働条件通知書とは?まずはここから
労働条件通知書は、「あなたを、こういう条件で雇います」ということを、会社が働く人に書面で伝えるための書類です。
労働基準法第15条で、会社は人を雇い入れるときに、賃金や労働時間などの労働条件をはっきりと示さなければならない、と決められています。これは正社員だけの話ではありません。パート、アルバイト、契約社員、日雇いの方まで、雇う人すべてが対象です。
「うちは口頭でちゃんと説明しているから大丈夫」という社長さんもいらっしゃいますが、口頭だけでは法律上の義務を果たしたことになりません。あとから「聞いていない」「言った・言わない」のトラブルになったとき、会社を守ってくれるのもこの書類です。
雇用契約書との違い
よく似た書類に「雇用契約書」があります。違いはこうです。
| 労働条件通知書 | 雇用契約書 | |
|---|---|---|
| 性質 | 会社が働く人に「通知」する書類 | 会社と働く人が「合意」する書類 |
| 署名 | 法律上は不要 | 双方が署名するのが一般的 |
| 法律上の義務 | あり(労働基準法第15条) | なし(任意) |
実務では、この2つを1枚にまとめた「労働条件通知書兼雇用契約書」という形で、働く人にも署名してもらうケースがよく見られます。「通知した」という事実に加えて、「本人が内容を確認して納得した」という記録が残るためです。
必ず伝えなければならない項目(絶対的明示事項)
まず押さえていただきたいのが、法律で「必ず伝えなければならない」と決められている項目です。労働基準法施行規則第5条で定められており、「絶対的明示事項」と呼ばれます。このうち、昇給に関する事項を除いて、書面での明示が必要です。
| 項目 | 具体的に書くこと |
|---|---|
| ① 契約期間 | 「期間の定めなし」か、有期なら「2026年11月1日〜2027年10月31日」のように始まりと終わり |
| ② 更新の有無と判断基準(有期の方のみ) | 「更新する場合がある」「更新しない」、更新する場合は何を見て判断するか。更新回数や通算期間の上限があればその内容も |
| ③ 就業場所と業務の内容 | 雇い入れ直後の勤務先と仕事の内容に加えて、将来の「変更の範囲」 |
| ④ 労働時間に関すること | 始業・終業の時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇。シフト制なら交替のルール |
| ⑤ 賃金に関すること | 基本給や手当の額、計算方法、締め日と支払日、支払方法(振込など) |
| ⑥ 退職に関すること | 定年、自己都合退職の手続き、解雇の事由と手続き |
③の「変更の範囲」と②の「更新上限」は、2024年4月の法改正で加わった比較的新しい項目です。このあとの章でくわしく説明します。
「昇給」は少し特殊です
昇給に関する事項も、法律上は必ず明示しなければならない項目に含まれます。ただし、書面での明示までは求められておらず、口頭でもかまわないとされています。
とはいえ、「昇給は年1回、4月に見直す」「昇給はない」のように、ひと言でも書いておくほうが、あとで「昇給の話は聞いていない」というすれ違いを防げます。
【注意】有期契約の方には、このほかに「無期転換」に関する明示が必要になるタイミングがあります。これも2024年4月改正の章で触れます。
制度がある会社だけ伝える項目(相対的明示事項)
次は、「その制度を会社が設けている場合には、伝えなければならない」項目です。こちらは「相対的明示事項」と呼ばれます。
・退職手当(対象者、計算方法、支払時期など)
・賞与や臨時の手当、最低賃金額
・食費や作業用品など、働く人に負担してもらうもの
・安全衛生に関すること
・職業訓練に関すること
・災害補償、業務外のケガや病気への扶助
・表彰や懲戒(制裁)に関すること
・休職に関すること
これらは法律上、口頭での明示でもよいとされています。ただ実務では、「就業規則第○条による」と書いておくか、通知書に一行添えておくのが安心です。「制度がないなら書かなくてよい」のであって、「制度があるのに黙っていてよい」わけではない、という点だけ覚えておいてください。
パート・有期雇用の方には、さらに4つの項目
パートタイマーや契約社員など、パート・有期雇用の方を雇うときは、労働基準法とは別に「パートタイム・有期雇用労働法」でも明示が求められています。こちらは書面などでの明示が必要です。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 昇給の有無 | 「有(年1回4月)」「無」 |
| 退職手当の有無 | 「無」「有(退職金規程による)」 |
| 賞与の有無 | 「有(業績による)」「無」 |
| 相談窓口 | 「総務部 ○○(電話 ○○-○○○○)」のように部署名・担当者・連絡先 |
「ない」なら「無」と書けばよいだけですので、むずかしく考える必要はありません。書き忘れると10万円以下の過料の対象になりますので、パート・有期の方向けの様式には必ずこの4項目を入れておきましょう。
そして2026年10月から、ここに5つ目の項目が加わりました。これはあとの章でご説明します。
2024年4月の法改正で加わった4つの項目
2024年4月1日から、労働条件の明示ルールが見直され、記載すべき項目が4つ増えました。「ひな形を何年も変えていない」という会社は、まずここを確認してください。
| 追加された項目 | 対象 | いつ明示するか |
|---|---|---|
| ① 就業場所・業務の「変更の範囲」 | すべての労働者 | 雇い入れ時と、有期契約の更新のたび |
| ② 更新上限の有無と内容 | 有期契約の方 | 契約時と更新のたび |
| ③ 無期転換を申し込める旨 | 有期契約の方 | 無期転換申込権が発生する更新のたび |
| ④ 無期転換後の労働条件 | 有期契約の方 | 同上 |
① 就業場所・業務の「変更の範囲」
いちばん多くの会社に関係するのがこの項目です。2024年3月までは「入社直後」の勤務地と仕事の内容を書けばよかったのですが、同年4月1日以降は「将来、どこまで変わる可能性があるか」まで書く必要があります。
書き方の例はこうです。
・就業場所(雇入れ直後)福岡本社 (変更の範囲)会社の定める事業所
・業務の内容(雇入れ直後)経理事務 (変更の範囲)会社の定める業務
転勤や職種変更がない前提で雇うなら、「(変更の範囲)変更なし」と書きます。在宅勤務を認めるなら、「会社の定める事業所(在宅勤務を行う場所を含む)」のように含めておきます。
【注意】「変更の範囲」を広く書けば、会社が自由に異動させられる、という意味ではありません。実際の配置転換は、労働契約や就業規則で定められた範囲の中で行う必要があり、権利の濫用にあたる場合は認められません。逆に「変更なし」と書いた人を一方的に転勤させることはできません。採用時に、その人をどう働かせたいのかを決めてから書く、という順番が大切です。
② 更新上限の有無と内容
有期契約の方には、「更新は通算5年まで」「更新は3回まで」といった上限があるかどうかと、あるならその内容を書きます。上限がなければ「無」で構いません。
なお、最初の契約のあとから上限を新しく設けたり、短くしたりする場合は、その理由をあらかじめ本人に説明することも求められています。
③④ 無期転換に関すること
有期契約が通算5年を超えて更新されると、本人の申し込みで無期契約に転換できる「無期転換ルール」があります。この申込権が発生する契約更新のときには、「無期転換を申し込むことができます」という旨と、転換したあとの労働条件を明示しなければなりません。
5年を超える更新が見えてきたときに忘れやすい項目です。契約更新の管理表に、「通算期間」の欄を設けておくと見落としを防げます。
厚生労働省の改正の案内ページに、改正の内容がまとまっています。様式を見直す際は、2026年10月改正にも対応した最新のモデル労働条件通知書を参考にしてください。
2026年10月の法改正:パート・有期の方に「説明を求められる」ことを伝える
直近の改正はこちらです。2026年10月1日から、パート・有期雇用の方を雇い入れるときの明示事項に、「正社員との待遇の違いの内容や理由について、説明を求めることができる」という旨が加わりました。
パートタイム・有期雇用労働法には、もともと「パート・有期の方から求められたら、正社員との待遇差の内容と理由を説明しなければならない」というルールがあります。ただ、働く側がその権利を知らなければ使えません。そこで、雇い入れの時点で「聞いていいんですよ」と伝えることが会社の義務になった、というのが今回の改正です。
通知書に何を書けばよいか
厚生労働省のリーフレットに記載例が示されています。「次の窓口に対して、通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる」という趣旨の一文と、窓口の部署名・担当者・連絡先を書く形です。「通常の労働者」は、自社の呼び方(「正社員」など)に置き換えて構いません。この記載欄は、前の章でご紹介した最新のモデル労働条件通知書にも設けられています。
前の章の「相談窓口」と同じ窓口にすることもできます(その場合、モデル様式では相談窓口の欄に「同上」と書けばよいとされています)。パート・有期の方向けの様式に、この一文と窓口を追加すれば、形式上の対応は整います。ただし、実際に説明を求められたときに対応できる体制は、あわせて整えておきましょう。
押さえておきたいポイント
・対象は、2026年10月1日以降に新しく雇い入れるパート・有期雇用の方と、同日以降に契約を更新する方。すでに働いている方に、改正を理由に一律で渡し直す義務はありませんが、有期契約を更新するときには新しい項目も書面などで伝える必要があります
・明示を怠ると、ほかの4項目と同じく10万円以下の過料の対象になります
・同じ日に「同一労働同一賃金ガイドライン」と「雇用管理指針」も改正されています
本当に大事なのは「一文を足すこと」ではありません
通知書に「説明を求めることができます」と書くということは、実際に求められたら説明できる状態にしておく、ということです。「パートさんに賞与がないのはなぜか」「正社員だけに家族手当があるのはなぜか」を、その待遇の目的に照らして説明できるか。ここが本当の宿題です。説明の仕方についても、資料を使って口頭で説明するか、必要な事項をまとめたわかりやすい資料を渡すか、のいずれかによることが指針で示されています。
この点は、当事務所の別の記事でくわしく取り上げています。
・令和8年10月1日、パート・有期雇用のルールが変わります~「同一労働同一賃金」をきっかけに、中小企業こそ賃金・評価制度を見直すとき~
・パート・有期社員の説明要求権明示義務化-あなたの会社は大丈夫ですか?
いつ・誰に・どうやって渡すか
いつ渡すか
渡すタイミングは「労働契約を結ぶとき」です。注意していただきたいのは、「入社するとき」ではなく「契約を結ぶとき」だという点です。採用内定によって労働契約が成立する場合には、内定の時点で労働条件を明示する必要があります。「初出勤の日に渡せばよい」「試用期間が終わってから渡せばよい」というわけではありません。
有期契約の方には、契約を更新するたびに渡します。更新は新しい契約を結ぶことと同じだからです。2024年4月以降は、更新のたびに「変更の範囲」や「更新上限」も改めて明示することになっています。
誰に渡すか
雇い入れるすべての人です。正社員はもちろん、パート、アルバイト、契約社員、嘱託、日雇い、短期のアルバイトも対象です。「週に数時間しか働かないパートさんだから」という例外はありません。
どうやって渡すか
原則は紙での交付です。ただし2019年4月から、働く人本人が希望した場合に限り、次の方法でも明示できるようになりました。
・FAX
・電子メール(添付のPDFなど)
・LINEなどのSNSのメッセージ
条件は2つです。本人が希望していること、そして本人がそれを印刷して書面にできることです。会社の都合でメールにする、というのは認められていません。クラウドの労務管理システムで電子交付する場合も、申込画面や同意欄などで「本人の希望」の記録が残るようにしておきましょう。
【ひと工夫】渡した証拠として、通知書の控えに本人の受領サインをもらうか、「労働条件通知書兼雇用契約書」として双方が署名する形にしておくと、「もらっていない」という争いを防げます。
よくある間違い・つまずきやすいポイント
実際に中小企業の労務相談でよく見かけるのは、次のようなケースです。
・口頭の説明だけで、書面を渡していない
・正社員には渡しているが、パート・アルバイトには渡していない
・有期契約の更新時に渡していない(最初の1回きり)
・就業場所を「本社」とだけ書き、「変更の範囲」の欄がない(2024年3月以前のひな形をそのまま使っている)
・パート・有期の方向けの様式に、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口が入っていない
・固定残業代を払っているのに、「何時間分でいくらか」が明確になっていない。固定残業代を超えた分の残業代を追加で支払うことも示されていない
・「変更の範囲:会社の定める業務」と書いているが、就業規則に配置転換の規定がない
・本人の希望を確認せずに、会社の都合でメール送付だけで済ませている
・就業規則より不利な条件を通知書に書いている
間違えるとどうなるか
労働条件を明示しなかった場合、労働基準法では30万円以下の罰金の対象になります(第120条)。また、明示された条件が事実と違っていたときは、働く人は即座に契約を解除できます(第15条第2項)。
現実的により困るのは、労使トラブルになったときです。通知書がない、あるいは内容があいまいだと、「残業代はいくらの前提だったのか」「転勤させてよい約束だったのか」をめぐって、会社側が不利な立場に立たされます。
最後の「就業規則より不利な条件」についても補足しておきます。通知書に就業規則を下回る条件を書いても、その部分は無効になり、就業規則の基準まで引き上げられます(労働契約法第12条)。通知書は就業規則とセットで整える、と覚えておいてください。
まとめ:ひな形を一度、点検してみてください
労働条件通知書は、「法律で決まっているから出す書類」であると同時に、会社と働く人が同じ前提に立つための約束ごとです。入社初日に「こういう条件で一緒に働きましょう」と手渡せる会社は、それだけで安心感が違います。
今の様式が最新のルールに合っているか、次の点を確認してみてください。
・就業場所と業務に「変更の範囲」の欄があるか(2024年4月〜)
・有期契約の方向けに「更新上限の有無」「無期転換」の欄があるか(2024年4月〜)
・パート・有期の方向けに「昇給・退職手当・賞与の有無」「相談窓口」があるか
・パート・有期の方向けに「待遇差の説明を求めることができる旨」と窓口があるか(2026年10月〜)
・固定残業代の時間数と金額が書かれているか
・就業規則の内容と食い違っていないか
・メールなどで交付する場合、本人の希望を確認した記録があるか
ひとつでも「どうだったかな」と思う項目があれば、様式を見直すよいタイミングです。
参考資料
・厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」
・厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります(令和8年10月1日施行)」
・厚生労働省「モデル労働条件通知書(2026年10月改正対応)」
・厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
