【給与担当者向け】最低賃金の引上げで昇給したら社会保険料はいつ変わる?月額変更届の実務チェックリスト(2026/9/29)
最低賃金の改定に合わせて、パート・アルバイトの時給や社員の基本給を見直す会社も多いでしょう。その際、給与担当者が確認したいのが「昇給した人の社会保険料も変更するのか」という点です。
結論からいうと、時給を上げた人全員の社会保険料が、直ちに変わるわけではありません。社会保険に加入している人について、昇給後の給与を3か月確認し、一定の要件を満たした場合に「随時改定」を行います。
この記事では、最低賃金改定に伴う給与変更から、月額変更届の判定、給与からの保険料控除まで、実務の順番に沿って解説します。
最低賃金の改定で、まず給与担当者が確認すること
最低賃金の発効日と、変更が必要な人を確認する
最低賃金は都道府県によって金額も発効日も異なります。2026年の福岡県の地域別最低賃金は、10月4日から時給1,114円です。福岡県以外にも事業所がある場合は、それぞれの地域の発効日を確認しましょう。
発効日が給与計算期間の途中でも、その日以降の労働には改定後の最低賃金が適用されます。たとえば福岡県で、10月1日から10月31日までを計算期間とする場合、10月4日以降について新しい最低賃金を満たす必要があります。「次の給与計算期間から変更すればよい」と考えないよう注意してください。
時給者だけでなく、月給者も確認が必要です。最低賃金の対象となる賃金を時間額に換算し、適用される最低賃金以上かを比較します。最低賃金との比較では、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、賞与、残業代の割増部分などは対象から除きます。
最低賃金の確認と社会保険の判定は、別々に行う
ここは特に間違えやすいところです。最低賃金を満たしているかの確認と、社会保険の標準報酬月額を変更するかの判定では、使う賃金の範囲が異なります。
- 最低賃金の確認:最低賃金の対象となる賃金を時間額に換算して比較する。
- 社会保険の随時改定:基本給だけでなく、社会保険上の報酬に当たる通勤手当や残業代なども含め、3か月の報酬を確認する。
最低賃金の計算で除いた通勤手当を、社会保険の報酬からも除いてしまう、といった混同を防ぎましょう。
時給を上げると、社会保険料はいつから変わる?
出発点は「昇給日」ではなく「変更後の給与を初めて支払った月」
社会保険の随時改定では、固定的賃金が変わった後の給与を初めて支払った月を「変動月」とします。時給単価の引上げは、固定的賃金の変動に当たります。
たとえば、福岡県の最低賃金改定に合わせて10月4日から時給を上げた場合でも、昇給後の賃金を初めて支払うのが10月なのか11月なのかは、会社の締日と支払日によって異なります。この違いによって、随時改定を判定する3か月と、改定月が変わります。
10月支給と11月支給、それぞれのスケジュール
次の表は、変更後の時給で計算した給与を初めて支払った月を起点とする例です。いずれも、随時改定の要件を満たした場合のスケジュールです。
| 変更後の給与を初めて支払った月 | 判定に使う給与 | 標準報酬月額の改定月 | 前月分控除の場合の反映例 |
|---|---|---|---|
| 2026年10月 | 2026年10月・11月・12月支給分 | 2027年1月分から | 2027年2月支給給与から |
| 2026年11月 | 2026年11月・12月・2027年1月支給分 | 2027年2月分から | 2027年3月支給給与から |
※給与締日の途中から昇給した場合、支払額は昇給額が満額ではないため、「変更後の給与を初めて支払った月」には該当しません
例)末締め翌月25日払:10/1~10/3は1,057円/時。10/4から1,114円/時。
支給月「11月」は満額昇給した金額ではないため、支給月「12月・1月・2月」で随時改定に該当するかを確認します
表の最後の列は、前月分の社会保険料を当月支給の給与から控除する会社の例です。「標準報酬月額が変わる月」と「給与明細の控除額が変わる月」は分けて確認してください。
なお、発効日が給与計算期間の途中にあり、最初の支給月に旧時給と新時給による賃金が混在する場合や、後日差額を支払う場合は、給与の計算内容と支払経緯を確認したうえで、変動月や報酬額を判断します。
最低賃金に伴う昇給で、月額変更届が必要になる3つの要件
要件1:時給や基本給など、固定的賃金が変わった
時給単価、日給単価、基本給、役職手当など、支給額や支給率が決まっている賃金の変更を確認します。最低賃金に合わせた時給の引上げは、この要件に該当します。
ただし、時給が上がっただけで月額変更届が必要と決まるわけではありません。残りの要件も確認します。
要件2:3か月の平均額による標準報酬月額が、原則2等級以上変わった
変動月から連続する3か月に支払った報酬を合計し、3で割った平均額から、該当する標準報酬月額を調べます。そして、現在の標準報酬月額と比較します。原則として、2等級以上の差が必要です。
この報酬には、引き上げた時給による給与のほか、社会保険上の報酬に当たる各種手当や残業代も含めます。時給が上がっても、3か月の平均額による標準報酬月額が1等級しか変わらない場合は、原則として随時改定の対象になりません。ただし、等級の上限・下限に関係する場合には、1等級差でも対象となる例外があります。
要件3:3か月とも支払基礎日数を満たしている
変動月から連続する3か月の各月について、給与支払いの基礎となった日数が原則17日以上必要です。日給制・時給制の人は、通常、出勤日数を基に確認します。
制度上の「短時間労働者」に該当する被保険者は、各月11日以上で判定します。単にパート・アルバイトという呼び名だけで11日基準になるわけではありません。社会保険上の被保険者区分を確認しましょう。
時給が上がっても対象にならない例
- 3か月の平均額で比較すると、標準報酬月額の差が原則2等級未満だった。
- 3か月のうち、支払基礎日数の要件を満たさない月があった。
- 時給は上がったが、残業代などが減ったため、平均額から求めた標準報酬月額は反対に下がった。
時給の引上げをきっかけに、対象者全員について判定することが大切です。一方で、「時給を上げた人全員について月額変更届を提出する」とは考えないようにしましょう。
最低賃金改定後に給与担当者が進める実務チェックリスト
発効日前:賃金の確認と昇給情報の共有
- □ 事業所に適用される最低賃金額と発効日を確認した
- □ 時給者だけでなく、月給者も時間額に換算して確認した
- □ 最低賃金の比較から除く手当を確認した
- □ 対象者ごとの新しい時給・基本給と適用日を決めた
- □ 発効日をまたぐ給与計算期間の処理方法を確認した
- □ 人事担当者から給与担当者へ変更情報を共有した
昇給後:3か月の給与で随時改定を判定
- □ 変更後の固定的賃金を初めて支払った月を確認した
- □ その月から連続する3か月の報酬額を確認した
- □ 3か月それぞれの支払基礎日数を確認した
- □ 従前と3か月平均による標準報酬月額を比較した
- □ 固定的賃金の増減と標準報酬月額の増減方向を確認した
- □ 上限・下限に関係する例外を確認した
該当が確定した後:届出と給与計算への反映
随時改定に該当した場合は、月額変更届を日本年金機構へ速やかに提出します。提出後は決定通知の改定年月と標準報酬月額を確認し、会社の保険料控除方法に合わせて給与計算へ登録します。
保険料額は、変更前後の標準報酬月額を加入先の保険料額表に当てはめて確認します。健康保険料と厚生年金保険料はそれぞれ確認し、介護保険料の該当有無なども見落とさないようにしましょう。
よくある質問
最低賃金に合わせて時給を上げたら、社会保険料も10月から上がりますか?
必ずしも10月から上がるわけではありません。変更後の時給で計算した給与を初めて支払った月から3か月の報酬を確認し、随時改定の要件を満たした場合に、その月から数えて4か月目の標準報酬月額が変わります。
社会保険に加入していないパートの時給を上げた場合も、月額変更届が必要ですか?
社会保険の被保険者でなければ、その人について月額変更届は提出しません。ただし、時給や労働条件の変更に伴い、社会保険への加入要件に該当しないかは別に確認が必要です。
時給は変えず、契約する労働時間を増やした場合はどうなりますか?
時給単価が同じでも、契約時間の変更は固定的賃金の変動として随時改定の判定対象になる場合があります。勤務実績としてたまたま働く時間が増えた場合と区別し、労働契約の変更内容を確認してください。
まとめ:最低賃金の対応と社会保険料の変更を、別の予定として管理する
最低賃金への対応は、各地域の発効日から必要です。一方、社会保険料の随時改定は、変更後の賃金を初めて支払った月から3か月の報酬を確認して判定します。
給与担当者は、対象者ごとに「最低賃金の発効日」「新賃金の初回支払月」「随時改定の判定月」「標準報酬月額の改定月」「給与からの控除変更月」を分けて管理しましょう。綾部事務所では、最低賃金改定に伴う賃金の確認から、月額変更届と給与計算への反映までご相談を承っています。
参考資料
| 令和8年10月1日、パート・有期雇用のルールが変わります~「同一労働同一賃金」をきっかけに、中小企業こそ賃金・評価制度を見直すとき~ ≫
